書評:偽りの農業「成長戦略」を正せ
『偽りの農業「成長戦略」を正せ』
月刊Voice 2014年2月号掲載
著者:昆吉則(月刊『農業経営者』編修長)
以下評者:田鴨正路
「今回の改革、減反廃止ではなく、飼料米作付け転換による主食用米の需給調整なのだ。その転換作物への交付金は法外価格(10アール当たり最大で10万5千円)で、実質的に農協界の全面勝利である。」
確かに、今回の改革では、生産目標数量の調整は廃止される。その結果として、生産農家は3割減反や4割減反といった一律な減反目標の束縛から解放されることになり、ついに農業界においても自由競争の時代がやってきた。
良い米を、売れる米を真摯に作ろうとする農家は、減反目標といった不合理な束縛を意識せず、思うにまかせ米が作れるようになる。これは農業生産の自由化である。そう直感的に思われた今回の改革であったが、しかし、内実は相変わらず利権団体保護の域を出ない、看板掛け替え改革なのかもしれない。
著者が問題とするのは、減反による転換作物に農業のイノベーションが取り入れられていないことだ。例えば近年確立された農法に乾田直播きがある。これを飼料用米に導入すれば、その生産費を半減できるし、法外な交付金を用意せずにすむ。
そしてもう一つ、飼料用作物のみならず通常の食料作物として将来需要の増大が見込まれるトウモロコシがある。こちらは、飼料用米に比べ1/3で生産可能であり、その収益も10アール当たり4万円をくだらない。
なるほどと思う。ちなみに乾田直播きについては、私自身、著者の予想とは異なり、除々に広がっていくと予想している。現行の水稲生産体制を直播きに変換したところで、その営農機械体系に大きな変更を強いるわけではない。そして、もし著者者が言うように生産費を半減できるなら、個々の兼業農家は別としても、既存の転作組合が取り組むには魅力的な農法となろう。転作作物については、すでに転作組合への生産集積が進んでいるのである。
問題は、実際の収益と比較した交付金額の決定をどのように決定し、どう運用していくかにある。この運用いかんによって、農家の経営方針が合理化に歩むか、それとも多額に交付金をもらえる方向に歩むかが変わってくる。もちろん、我々消費者としては、農家の経営方針が「農作物を食べる人(即ち消費者)」に向いてもらうことを願っている。
転作作物としてのトウモロコシの有望性については、生産機械の転換とともに、新たな販路を獲得できるかがカギとなろう。既存の転作組合よりも一般企業と結びついた新進気鋭の若手農家や、新規就農者向きの作物かもしれない。さらに中山間地農業での懸案となる遊休農地の活用においても、このトウモロコシ栽培は大きな可能性を持っているように思われる。
ちなみに中山間地の農村は多かれ少なかれ、限界集落の懸念を抱えている。もしかしたら、このような懸念材料が、トウモロコシなど新たな転作作物振興のカギを握るかもしれない。なぜなら、古い集落が崩壊すれば、今までそこにあった多くのしがらみ、農業構造改革の足かせとなってきた、多くの呪縛から解放され、より自由な発想で農業経営を展開できるかもしれないからである。
月刊Voice 2014年2月号掲載
著者:昆吉則(月刊『農業経営者』編修長)
以下評者:田鴨正路
「今回の改革、減反廃止ではなく、飼料米作付け転換による主食用米の需給調整なのだ。その転換作物への交付金は法外価格(10アール当たり最大で10万5千円)で、実質的に農協界の全面勝利である。」
確かに、今回の改革では、生産目標数量の調整は廃止される。その結果として、生産農家は3割減反や4割減反といった一律な減反目標の束縛から解放されることになり、ついに農業界においても自由競争の時代がやってきた。
良い米を、売れる米を真摯に作ろうとする農家は、減反目標といった不合理な束縛を意識せず、思うにまかせ米が作れるようになる。これは農業生産の自由化である。そう直感的に思われた今回の改革であったが、しかし、内実は相変わらず利権団体保護の域を出ない、看板掛け替え改革なのかもしれない。
著者が問題とするのは、減反による転換作物に農業のイノベーションが取り入れられていないことだ。例えば近年確立された農法に乾田直播きがある。これを飼料用米に導入すれば、その生産費を半減できるし、法外な交付金を用意せずにすむ。
そしてもう一つ、飼料用作物のみならず通常の食料作物として将来需要の増大が見込まれるトウモロコシがある。こちらは、飼料用米に比べ1/3で生産可能であり、その収益も10アール当たり4万円をくだらない。
なるほどと思う。ちなみに乾田直播きについては、私自身、著者の予想とは異なり、除々に広がっていくと予想している。現行の水稲生産体制を直播きに変換したところで、その営農機械体系に大きな変更を強いるわけではない。そして、もし著者者が言うように生産費を半減できるなら、個々の兼業農家は別としても、既存の転作組合が取り組むには魅力的な農法となろう。転作作物については、すでに転作組合への生産集積が進んでいるのである。
問題は、実際の収益と比較した交付金額の決定をどのように決定し、どう運用していくかにある。この運用いかんによって、農家の経営方針が合理化に歩むか、それとも多額に交付金をもらえる方向に歩むかが変わってくる。もちろん、我々消費者としては、農家の経営方針が「農作物を食べる人(即ち消費者)」に向いてもらうことを願っている。
転作作物としてのトウモロコシの有望性については、生産機械の転換とともに、新たな販路を獲得できるかがカギとなろう。既存の転作組合よりも一般企業と結びついた新進気鋭の若手農家や、新規就農者向きの作物かもしれない。さらに中山間地農業での懸案となる遊休農地の活用においても、このトウモロコシ栽培は大きな可能性を持っているように思われる。
ちなみに中山間地の農村は多かれ少なかれ、限界集落の懸念を抱えている。もしかしたら、このような懸念材料が、トウモロコシなど新たな転作作物振興のカギを握るかもしれない。なぜなら、古い集落が崩壊すれば、今までそこにあった多くのしがらみ、農業構造改革の足かせとなってきた、多くの呪縛から解放され、より自由な発想で農業経営を展開できるかもしれないからである。
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